「雪絵ちゃん」のお話



かっこちゃんこと、山元加津子さんのメルマガ
第1086号 「宮ぷー心の架橋プロジェクト」(2012年7月27日)より


アメリ
    8月2日(木) ロサンゼルス
    8月3日(木) サンフランシスコ
の講演では「きいちゃん」の次に、「雪絵ちゃん」のお話をします。


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雪絵ちゃんの話
大好きな雪絵ちゃんという友達がいました。
病弱養護学校で出会った雪絵ちゃんは、
多発性硬化症、別名MSという病気を持っていました。
脳の中のいろいろな場所が固くなって、目が見えにくくなったり、手足が動かしにくくなるという病気でした。
その症状はリハビリによって、よくなるけれど、でも、
再発の前の状態にもどることはなかなか難しいということで、
私は雪絵ちゃんが再発すると、どんなに不安だろうと心配でした。


でも、雪絵ちゃんは口癖のように言いました。
「私はMSになってよかったよ。MSになったからこそ、分かったことがいっぱいあるし、MSになったからこそ、今周りにいる人に出会えたよ。かっこちゃんに出会えたよ」
と私のことも言ってくれました。
もし、MSでなかったら、違ういろいろな人、素敵な人にも出会えたと思うけれど、私は今、周りにいる人がいい、
かっこちゃんがいい、だからこれでよかった。
目が見えなくなっても手足が動かなくなっても、人工呼吸器をつけないと息ができなくなったとしても、決してMSであることを後悔しないよ。
MSの雪絵を丸ごと愛していくよ」
と言い切る雪絵ちゃんはなんて素敵だろうと思いました。


そんな雪絵ちゃんがあるとき「かっこちゃん疲れちゃった」と言いました。
そのときは体のほとんどが動かなくなっていたのです。
私は雪絵ちゃんがどんなにつらいかわかっていたので、
どうしようと思いました。
そんな私の様子を感じた雪絵ちゃんが
「かっこちゃん、まさか私が死にたいとでも思ったと思った? 
そんなはずないでしょう。ただ動けないからちょっと疲れちゃっただけ。
何かうれしくなるような話をしてほしい」と言いました。
「なあんだ、そうだったの。まかしておいて、私、雪絵ちゃんにお話ししたいこといっぱいあるんだ」と言いました。
そのときお話ししたのが、映画『1/4の奇跡』の主題となっています。


その頃、テレビで見たお話がとても印象に残って、
そのことを話したのですが、
科学番組で、遺伝子についての放映でした。
あるアフリカの村がマラリアという病気で絶滅しそうになるのです。
でも、絶滅しませんでした。
なぜなら、マラリアにかからない人がいて、その人がいることで絶滅から救われたのです。
どんな人がマラリアにかからないかということを調べたら、
赤血球が草を刈る鎌状の形をしている鎌状赤血球を持っている人がマラリアにかからないということがわかりました。
お医者さんたちは、今度は鎌状赤血球の人の兄弟を集めて調べたところ
あることがわかりました。
その人たちは三つのグループに分けることができました。


一つ目は鎌状赤血球を持っていて、重い障害がある人たちが四分の一。
二つ目のグループは鎌状赤血球を持っていて、障害のない人で、
その人たちは四分の二の人たち。
そして最後は、通常の赤血球で、障害もない人たちが四分の一。
この三つに分けられることがわかりました。
マラリアが流行ると、三番目のグループの人は鎌状赤血球でないので、亡くなってしまいます。
テレビでは、鎌状赤血球を持っていて、
障害のない四分の二の人たちがいたから、
村は絶滅から救われたと言っていました。
けれども、残りの鎌状赤血球を持っていて、
障害のある人たちはとても大きな役割をしている。
もし村に障害のある人はいらないんだという考えがあったとしたら、
いずれ鎌状赤血球を持った人はいなくなってしまって、
この村はマラリアが流行ったときに絶滅していたであろう。
そう考えると、この村を救ったのは鎌状赤血球を持っている障害のある四分の一の人たちであると言えるのではないか。


そして、こんなふうにもテレビでは言っておられました。
今、私たちが明日へ向かって元気に歩いていくことができるのは、
過去に病気や障害を持って、そのために苦しみながらも生きていてくれた人がいるおかげである。
今も病気や障害を持ってそのために苦しんでおられる方がいます。
その人たちがいてくださるから、私たちの未来の子供たちが元気に明日へ向かっていくことができるのです。
社会は障害や病気を持つ人を含んでいかなければならない。
それでなければ私たちの未来はないのです


そんなお話を雪絵ちゃんにしたら、雪絵ちゃんは、とても喜んでくれて、
「私が病気であることにはそんなに大きな意味があったんだね。
うれしいな」
と言いました。そして、
「かっこちゃん、このことは私たちだけが知っていてはもったいないよ。
みんなが大切なんだということが科学的にも証明された本当のことなんだということを世界中の人が当たり前に知っている世の中にかっこちゃんがしてほしい。お願い」
と言うのです。
「どうしてそんなこと、わたしができる?できっこないよ」
と言うのに、雪絵ちゃんはどうしてもしてほしいと言いました。
私は雪絵ちゃんがあまりに一生懸命なので、
「わかったよ」と約束してしまったのです。


ところが、雪絵ちゃんは亡くなりました。
それは雪絵ちゃんの遺言になりました。
私は何の力もないのにどうしたらいいんだろうと思ったけれど、
不思議なことに、映画にしてくださる方がいて、『1/4の奇跡』という映画は、自主上映を重ねて、
日本では1000か所近く11万人の方が見てくださり、
世界中のいろいろな国でも上映していただいています。
アメリカでも、テレビ放映をしていただきました。
雪絵ちゃんの思いが、今、現実になろうとしているのかなと思いました。


またロサンゼルスの新原先生は鎌状赤血球による貧血症の世界的な権威のお医者さんです。
この映画を観てくださって、苦しい貧血症の人たちの苦しみを少しでも少なくしていくということが僕たちの仕事だが、
本人達に、苦しみには大きな意味があるんだということを伝えられることは嬉しいことですと言ってくださいました。


わたしは、病気や障害を持っている人たちが、私たちの命を救ってくれているということを決して忘れてはいけないと思うのです。
社会や国が、病気や障害をもっている人たち、あるいは弱者と呼ばれている人たちを支えていく必要があると思います。
かつこ




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