100本の花

一階の介護用ベッドへ移った日、
大きな、大きな、お見舞いの花籠が届いた。
それは会社の上司、エディさんからだった。


「でっかい花束にびっくりした!」
お礼の電話を掛ける郁代の声が元気にはしゃいでいたから、
本人がもう歩けない身であることを、
エディさんは想像できなかったに違いない。
お花の周りには、
冬を迎えるシドニーからの涼しい風が吹きわたっているようで
郁代はシドニーの皆さんを懐かしんだ。
連日の猛暑の中、
「早く涼しくならないかなあ」
と言っていた郁代への最高の贈り物だった。


姪のSちゃん(小学二年生)が、
1本、2本、3本…とお花をかぞえて言った。


「ちょうど、100本あったよ。
お花のしゅるいは13しゅるい。
オーストラリアで100人の人が、
いくちゃんの病気が治るよう、いのってくれているんだね。
100人の人が、お花を一本ずつこの花かごに、
挿(さ)していってくれたんだね」


「100本も数えられるなんて、Sちゃんすごいね。
オーストラリアで、ひとりひとりが花を挿してくれたんだね」


姪と話し合える時間は、郁代にとって楽しくかけがえのないものだった。
だが、この日を境にして
「Sちゃん、Aちゃんに会いたい」とは、
二度といわなくなった。


「元気ないくちゃんのままで、おぼえていてほしいから」
といった。



あなたにあえてよかった」より