浴衣の思い出

着物売り場に、色とりどりの浴衣を見かけるようになりました。
浴衣を見ると、思い出すこと・・・。
あの時は本当に困ったなあ。


「お母さん、浴衣を送って!」
郁代から電話があったのは、10月の終わり頃でした。
シドニーは夏、お友達と浴衣を着て出掛けようと相談したようなのです。


それが・・・私は困った、困った。
家にあるのはおとなしい柄。
ギラギラ照りつけるオーストラリアでは似合いません。
ところが、もう冬に向かう日本です。
どこにも、浴衣は売っていません。


「浴衣はありませんか?」
お店の人には、いきさつから話さねばなりませんでした。
やっと奥のほうから出してきてもらって、
数少ない中から大きめな柄を選びました。



病気治療のため郁代が帰国することになった時は、
家具やピアノ、食器や身の回り品を友人の皆さんに差し上げてきました。


郁代が旅立って2年ほど経ったころ、
遺品の中から浴衣が出てきてびっくりしました。
浴衣を着た写真もありました。
大切に持ち帰っていたんだ・・・と思うと、
胸がいっぱいになりました。