「ゆうきくんの探していたもの」 4

「海に来ようとしていたんだね。
お母さんに会いに来たんだね。
お母さんを探していたんだね」

最終回です。

「ゆうきくんの探していたもの」 4

ただ追いかけるだけで、どこをどう歩いたのかも知らずにいたけれど、
そこには大きな海がありました。
狭い路地から急に広がった大きな海は思いもしなかった景色でした。

そして港のコンクリートの端っこにゆうきくんは立ち止まっていました。
(ああ、ゆうきくんがいた)
ゆうきくんのそばにいったとき、
わたしの心臓がまた早鐘のように鳴り出しました。

信じられないゆうきくんの姿をそこに見たのです。

いつもいつも動いているか、ただぶつぶつつぶやくだけで、
表情を変えることがなかったゆうきくんが、
涙を流して泣いていたのです。

「海に来ようとしてたんだね。
お母さんに会いにきたんだね。
お母さんを探していたんだね」

泣いているゆうきくんを私も泣きながら抱きしめました。

お父さんに今日あった話をしたときに、お父さんがやっぱり泣きながら、
私の目の前にノートを差し出されました。
それはお母さんの日記でした。
お父さんの差ししめられたところにはこんなふうなことが書いてありました

『私は今、やっとゆうきの探していた物がわかった気がします。
ゆうきは学校バスを降りて、私の車を探すために歩きだしていたのです。
回り道のように見えてもゆうきは夕方、
日が沈む頃の私の車を探し出すために歩いていたのです。
ゆうきが小さかったときもきっとそうだったのだと思います。

眠っている私のそばを抜け出して、
ゆうきが会いたい時間の私を探すために歩いていたのです。

こんなこと言っても誰もわかってくれないかもしれない。
でも何年も何年もゆうきのあとを追って歩き続けてきた私にはわかるのです。
ゆうきは私のことなど少しも気にしていないと思っていたのに、
違っていたのです。

あの子がいつも探し続けているのは母親であるこの私だったのです。
それがわかったことで、私はなおゆうきを愛せると思いました』

「この日記を読んで決心がつきました。
仕事をもう少しゆうきの時間にあわせられるものに変えようと思います。
ゆうきはこれからも母親を探し続けるために歩き続けるでしょう。
それとも母親がいなくなったのに気がついて、
歩き続けることをやめるでしょうか?
それとも今度は私を探してくれるようになるでしょうか?
どちらにしても私はゆうきと弟のことを考えたいと思います。
あの子たちは私たちのところに、私たちの子供としてきてくれたのですから」

お父さんが何度も自分で自分に相づちをうちながら話されました。
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「ゆうきくんの探していたもの」1

「ゆうきくんの探していたもの」2

「ゆうきくんの探していたもの」3