"消えた"子どもたち

昨夜のNHKスペシャルは、
    「調査報告 "消えた"子どもたち
        〜届かなかった「助けて」の声〜 」 でした。
画面から、目が離せませんでした。

かつては地域で見守っていた子供の成長、
急激に変化したこのあたりも、住民同士のつながりが薄まる地域となり、
低年齢から一人ぼっちで放置されている子供が見受けられるようになったなあと、
日頃感じています。

親の存在が、子供を救えなくするケースが多く、
問題の難しさを感じました。

WEB特集
“消えた”子ども1000人超で、
放送された内容を詳しく読むことが出来ました。

“消えた”子ども1000人超

私たちが取材を始めたきっかけは、ことし5月、神奈川県厚木市のアパートの一室で1人の男の子が白骨化した遺体となって発見された事件でした。
父親に放置され衰弱死したとみられ、死後7年以上が経過していました。
ごみの散乱した部屋で一人、亡くなっていった男の子。
今もどこかで助けを待っている子どもがいるのではないか、
私たちはそう考え、何らかの理由で社会との接点を断たれた子どもたちを
“消えた”子どもたちと捉えてアンケート調査を行いました。
所在不明の子どもについては、厚生労働省がことし初めて調査を行い、
10月20日の時点で141人が、乳幼児健診を受けていなかったり、
学校に通っていなかったりすることが分かっています。

しかし、厚生労働省の調査は、住民票があるものの家庭と一切連絡が取れず音信不通になっているケースが対象で、
住民票が抹消されていたり、
保護者には会えていても子ども本人の姿を確認できなかったりするケースは、
含まれていません。
そこで、私たちのアンケートではそうした子どもたちにまで対象を広げ、
“消えた”子どもたちが保護された場合に受け入れ先となる児童養護施設児童相談所など1377か所を対象に行いました。
6割に当たる834か所から回答を得ました。

その結果、自分の意思に反しておおむね1か月以上学校に通えないなど、
一定期間、社会とのつながりを断たれていた子どもは、
施設に保護された子どものうち、
この10年で少なくとも1039人に上ることが分かりました。

子どもが“消える”要因は

なぜ子どもたちの姿が消えていくのか、
アンケートでは、その要因を複数回答で尋ねました。
この質問に回答のあった813人では、
「ネグレクトを含む親の虐待」が最も多く63%、
「貧困」や「借金からの逃避」といった経済的理由が31%、
保護者の「精神疾患や障害」が27%でした。

学校に行けなかったり、親に連れられて住む場所を転々としていたりした期間が1年以上に及んでいた子どもは262人に上り、
最も長いケースで生まれてから11年間、
家に閉じ込められていた子どももいました。
また、小中学校の義務教育を受けられなかった時期のある子どもは623人と、期間を把握できた813人のうち77%を占めました。

寄せられた回答には、過酷な生活の実態が記されていました。
『ひもでつながれ、おりに入れられていた』男の子。
『大人の腰の高さまで積み重なったゴミの隙間で1人眠っていた』子ども。
『家から1歩も出たことがなく、髪が伸び放題で言葉も話せず、笑うことも泣くこともなく、犬のように食事をしていた』男の子もいました。

家にいるのに“消える”

取材を進めると、いくつか傾向が見えてきました。
その1つが、不登校との見極めの難しさです。
アンケートでは、学校の教員などに対して親が
「子どもが会いたがっていない」、
「親戚の家に預けている」などとうそをついて、
実は、親が子どもを自宅に閉じ込めていたり虐待をしていたりしたケースがありました。

今回、私たちの取材に応じてくれた小学6年生の女の子は、
親の育児放棄によって家事などを強いられ、
3年間、学校に通えませんでした。
学校や教育委員会が通学するよう親に促しましたが拒絶していたと言います。
女の子は、結局、みずから警察に駆け込み保護されました。
「ずっと家にいたから気づいてくれる人もいなかった。
誰かに助けてほしかった」
と話しています。
施設から寄せられた回答では、
不登校の児童や生徒が17万人を超えるなかで、
不登校なのかネグレクトなのか、家庭の事情に深入りできない』とか、
『本人に会えないだけでいきなり強制的な介入には踏み切れない』など、
家にいるにもかかわらず子ども本人に会えない場合の対応の難しさを指摘する声が相次ぎました。

また、こうした、家にいるのに姿が“消える”事例としては、
親自身がSOSを出したくても出せないケースも少なくありませんでした。
親が精神疾患や障害を抱えている場合、
育児も家事もできない状況に陥って、
親子ともに孤立していく傾向にありました。
中には、『幼児が精神疾患の親の面倒を見ていた』例までありました。

ホームレス状態で“消える”

一方で、行政のネットワークだけでは居場所をつかみにくい事例もありました。
路上生活や車上生活などホームレス状態に陥っている子どもです。
今回のアンケートで、詳しい状況がつかめただけでもホームレス状態を経験していた子どもは85人に上りました。
中には、『コンビニで廃棄されたものやインスタントラーメンを拾って食べていた』子どもや、
自動販売機の裏で暖をとって寝ていた』兄弟もいました。
このうち、小学校4年生から1年半ほど学校に通えなかった高校生の男の子は、父親の仕事の事情で夜逃げ同然で家を出て、
一家で車上生活を強いられていました。
その間、公園のトイレを使い、風呂には入れず、1つの弁当を家族全員で分けて暮らし、車の中で体を折るようにして寝ていたといいます。 男の子は
「学校に行かせてほしいと親に言ってみたけれど、
『今はお金がないからだめだ』と言われ諦めるしかなかった」
と話していました。

子どもたちに残る深刻な影響

義務教育さえ受けられないなど、一定期間、社会とのつながりを断たれていた子どもたち。
どのような影響を抱えることになるのか、複数回答で尋ねました。
最も多かったのは、「学習の遅れ」で68%、「体の発達に影響」が19%、「非行・犯罪」が16%、「PTSDなどのトラウマ症状」は11%。

また、「コミュニケーション能力が低くほとんどの時間を1人で過ごしている」といった記述も多く、700人以上が何らかの影響に苦しんでいました。

回答では、『17歳で保護されたが漢字が書けない。計算ができない状況』、『筋肉がなく、坂道を下り始めると、止まることが出来ない』といった深刻な事態が記されていました。

子どもを“消さない”ために

今回のアンケートでは、日々、子どもたちに向き合っている施設の方々が考える課題や対策についても記述してもらいました。
『地域のつながりが希薄になる中、“姿が見えない子ども”は年々増加していると思う。水面下にはまだまだたくさんの子どもたちが苦しんでいる』、
『リストラ、孤立した育児、低賃金といった、保護者を取りまく社会環境の悪化が子どもにしわ寄せされている。親を支えることも重要だ』。

親だけでなく私たちの社会の在り方を問う指摘が相次ぎました。
社会から“消えていた”子どもたち本人の話を聞く中で、
私自身、周りの子どもをきちんと見ていただろうか、
おかしいと気づき行動していただろうかと、
そのことばが胸に突き刺さってきました。

子どもが社会から“消えない”“消さない”ための特効薬や単純な解決策はないのかもしれません。
しかし、だからこそ「難しい」で終わらせてはいけないと思っています。
今もどこかで助けを待っている子どもがいるかもしれません。
皆さんも子どもたちの声に耳を傾け、一歩踏み出してみませんか。