まど・みちおさん99歳 おめでとうございます

きょう、99歳の誕生日。おめでとうございます、まど・みちおさん。


 朝日新聞天声人語」(11月15日)よりの転載です。

 
 まど・みちおさんの紡ぐ詩は穏やかに、読む者の胸に広がっていく。

明日99歳の白寿を迎えるその詩人に、「虹」という一作がある。

地球に君臨する人間への、平易だが、きびしい言葉が連なっている。


    「虹」


   ほんとうは  こんな汚れた空に  

   出てくださるはずなど  ないのだった

   もしも  ここに

   汚したちょうほんにんの  人間だけしか住んでいないのだったら

   でも  ここには

   何も知らない  ほかの生き物たちが

   なんちょう  なんおく  暮らしている

   どうしてこんなに  汚れたのだろうと

   いぶかしげに

   自分たちの空を見あげながら


 無辜の生き物を慰めるために、虹は空にかかる・・・

詩を思い出しながら、国際自然保護連合の新しい報告を読んだ。

 
 世界の哺乳類の4分の1が、主に人間活動の影響で絶滅の危機にあるのだ

という。危機は1141種に忍び寄り、うち188種は絶滅寸前、29種はもう手

遅れの状態らしい。

環境は悪化し、生息地は消えて、動物たちを追いつめている。

 そうした中で、哺乳類の一種、人間は増え続けている。

国連人口基金の新しい報告では67億人。2050年には91億人を超える

という。地面も空気も、水も緑も、1人分の「地球」は少なくなる一方だ。

無論それらは、他の生き物との共有財産である。

 
 まどさんが思いを託した虹は、空の片方が晴れて、もう片方で雨が降ると

き現れる。夏の風物詩だが、晩秋から初冬にも「時雨虹」が時折かかる。

淡い日差しゆえに消えやすい様が、滅びゆくものの姿に重なり合う。



 新藤兼人さんは、96歳で「石内尋常高等小学校 花は散れども」で監督48作目という。新藤映画のモチーフの一つは愛と性だと。
 「愛がなかったら人は死滅したも同然だ」とおっしゃっている。