悼む人

悼む人

悼む人


愛や死への思い問う鏡のような物語   
 
〈ぼくは、亡くなった人を、ほかの人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです〉と、〈悼む人〉となった静人は言う。
〈誰に愛されていたんでしょうか。誰を愛していたでしょう。
どんなことをして、人に感謝されたことがあったでしょうか〉
と、亡くなった人について尋ねつづける。
 なぜそうせずにはいられないのか、そうすることが自分になにをもたらすのか、
静人自身にもわからない。
むしろ偽善者と呼ばれ、心の病か怪しげな宗教かと警戒されることのほうが多い。
死に軽重をつけず、その人のことを決して忘れずにいるというのは、
〈人々の安逸な暮らしを乱し〉〈人々を戸惑わせ、苛立たせる〉ものだから。
 物語は、そんな静人をめぐって織りなされる。
・・・・・


物語は鏡だった。〈悼む人〉は物語から旅立って、読み手の生きる現実へと渡ってきた。
静人の声が遠くから聞こえる。
その声は、

あなたには自分のことを悼んでくれる人がいますか。

あなたが悼みたい相手はいますか、

と繰り返し問いかけてくるのである。

                      〔重松清・評 抜粋〕


愛や死について、いつも考えているような気がします。