自分をゆだねる
「これは頭で考えてきめたことではありません。
自分の計らいでもないのです。
見えない大きな力、どこからともなくきこえてきた声が、
わたしをそうさせるのです。
わたしはいま、
その大きな掌に自分のすべてをゆだねる気持ちになっております」
小説の範宴の言葉が、
いつのまにか、郁代の声となって聞こえてきたのでした。
「こんなに辛いのに、自分を削ってまで、どうして周りの人を励まそうと思えるの?」
とわたしが一度だけ郁代に聞いたことがあります。
見ていて、耐えられなかったからでした。
その時、
「これより他に、何もないもの」
と言ったのでした。
「これ以上がんばれない」
というほど、体は極限の状態なのでした。