秀吉の一夜城


 
4歳のビッキー



連休の今頃だったなあ、子犬を見に行ったのは。


何とか身体が動かせる間は、
郁代は友人に会いに出掛けたりしていましたが、
病状が進み外出できなくなった時が私はとても心配でした。

もともと家の中でじっとしているタイプではなく、
活動的で誰とでも交流するのが郁代のスタイルでしたから。

動けなくなったら…郁代が考えたのはビッキーと名づけた子犬を飼うことでした。
自分の置かれた状況の中で、やりたい事を見つける。
決して諦めなかったのでした。


我が家に隣接して、草で荒れ放題になった建築予定の空き地がありました。

郁代が色鉛筆で描いていた「ビッキー広場」では、
ビッキーと郁代が楽しそうに駆け回っているのでした。

家族総動員で早速草むしり、周囲にフェンスを張りました。
完成予定図の通りに、
ホームセンターから素敵なベンチを買ってきて置きました。
プランターに花を植えると、「ビッキー広場」の完成!


必死になって、一日で仕上げました。秀吉の一夜城。


郁代が「して欲しいと思ったこと」はすぐに実行です。


2〜3日待ってね。
今は忙しいから、これが終わってからね。
来年になったら行こうね。

とは決して言えませんでした。
それほど、病状は速く進んだのでした。


そうまでしても、広場で郁代がビッキーと遊べたのは、
2〜3回だったでしょうか。

「心を込めて用意したことが、すぐ間に合わなくなる」状況が、
その後ずっと続くことになりました。