異端の渦の中で(七)

異端の渦の中で(七)       親鸞 248    五木寛之 


遵西(じゅんさい)は語る。

「この国に正式に仏(ほとけ)の教えが伝えられたのは、
百済の王家から大和の朝廷にもたらされたとされる。
釈尊が去られてから一千百年、仏の道は学問となり、国事となったのだ。
それを一挙にくつがえし、仏の道を釈尊の大道にもどそうとする革命者が、
この国に現れた。
それが法然上人だ。

だが法然上人は、おだやかなかただ。
一挙に物事を進めようとはせず、朝廷とも、幕府とも、公卿がたとも、
そつなくつきあわれ、清僧として生き仏のように尊敬されている。
しかし、それでは百年河清をまつようなものだ。

いまをのぞいて仏道釈尊の正道にもどす時はない。
法然上人の人柄で念仏門はもっている。
われらは上人の初志を、
あえて行き過ぎることでつらぬこうとしているのだ。
他宗を排撃し、
どんな悪行も念仏さえすれば許されると教え、
国の宗門と徹底的に対立するのだ」       (新聞連載小説 抜粋)