親鸞

法勝寺炎上  (十二)

〈あらすじ〉 綽空は法然が授けた名、善信に改名。 師の教えを進めるべく吉水を離れた。 遵西と黒面法師は、鹿野と善信を人柱に八角九重塔に火を放つ。 だが遵西は鹿野にわが子の妊娠を告白され、 燃える塔から二人と共に脱出した。 法勝寺炎上 (十二) 親…

遠雷の夏(七)

遠雷の夏(七) 親鸞 311 五木寛之慈円は良禅に訪ねた。 「善信は、どこで、どのような者たちにそれを語っているのか」 「彼は寺や、市場で人をあつめることもしない。 ただ、ひたすら歩きまわって、さまざまな顔見知りの男女と話をかわすだけです。 そこか…

遠雷の夏(六)

遠雷の夏(六) 親鸞 310 五木寛之良禅はいった。 「悪人、善人の区別さえつけないという考えのようにおもえます」 慈円はため息をついていった。 「なるほど、それは、とほうもなく危うい考えかただ」 良禅はうなずいた。 「善人、悪人の区別をつけないとい…

綽空から善信へ(十六)

綽空から善信へ(十六) 親鸞 304 五木寛之 「わが仏法の真実をそなたにわたしたぞ、それを抱いて自分の道を往け、 と、おっしゃっておられるのだ。 恵信どの、もしも生涯の師弟というものがあるとすれば、 師、高弟、弟子、門下、といったつながりではなく…

綽空から善信へ(十五) 

綽空から善信へ(十五) 親鸞 303 五木寛之「これを見てくれ」 と、綽空は床の上にすわって布につつんだ選択集の内題のところを恵信に見せた。 「みずから筆をとって、わたしの名前まで書きそえてくださった」 「なんといううれしいことでしょう」 「きょう…

綽空から善信へ(十五)

綽空から善信へ(十五) 親鸞 303 五木寛之 「これを見てくれ」 と、綽空は床の上にすわって布につつんだ選択集の内題のところを恵信に見せた。 「みずから筆をとって、わたしの名前まで書きそえてくださった」 「なんといううれしいことでしょう」 「きょう…

綽空から善信へ(十四)

綽空から善信へ(十四) 親鸞 302 五木寛之 綽空が写し終えた選択集を法然上人のもとに持参した時、 その場ですぐに筆をとって、 選択本願念仏集、と、みずから題字を書いた。 そのあと、さらに、 流れるように筆を走らせ、 南無阿弥陀仏 往生之業 念仏為本 …

綽空から善信へ(十三)

綽空から善信へ(十三) 親鸞 301 五木寛之 選択本願念仏集をすべて写し終えたとき、 目もかすみ、意識はもうろうとしていた。 にもかかわらず、心の深いところにはっきりと輝くものを感じるのだった。 それは綽空がつね日ごろ、 ふり払おうとしても払うこと…

綽空から善信へ(十二)

綽空から善信へ(十二) 親鸞 300 五木寛之 選択本願念仏集の書写にとりかかる前に、 綽空はくり返し、声にだしてその文章を読んだ。 読みすすむうちに、綽空は総毛だつような戦慄を覚えた。 既存の諸宗のすべてが否定され、 最後に仏(ほとけ)の本願によっ…

綽空から善信へ(七)

綽空から善信へ(七) 親鸞 295 五木寛之 「きょう、わたしは・・・選択集の書写をじきじきに許されたのだ」 念仏門をひらいた法然上人から、 選択本願念仏集の書写を許されたということは、 釈尊にはじまり、世親、曇鸞、道綽、善導、とつづく浄土の教えの…

七カ条の起請文 (一)

浅野川沿い 浜昼顔 〈あらすじ〉 恵信と結婚した綽空は、遵西から仲間に加われと迫られた。 彼らは念仏を逆手にとって人々に悪事を勧め、 法難による念仏の世の実現を画策。 それに乗じて黒面法師が、国家転覆を謀る。 弥七らは阻止すべく立ちあがった。 七…

異端の渦の中で (十二)   

異端の渦の中で (十二) 親鸞 253 五木寛之「念仏すれば悪人も救われるという上人の教えは、やさしい話のようで、 じつはなかなか難しい道かもしれぬ。遵西どのたちは、そこを逆手にとって、 行き過ぎを承知で世間に悪をすすめ、 他宗と正面衝突することを…

異端の渦の中で (十)

異端の渦の中で (十) 親鸞 251 五木寛之 遵西(じゅんさい)はなおも迫るように語りつづけた。「われらは町の辻、村の道ばたで人びとに説いて回っている。 ひとたび念仏を信ずれば、どんな悪行も許される、と。 念仏者はみんな平等だ。仏の本願とは、悪人…

異端の渦の中で (八)

異端の渦の中で (八) 親鸞 249 五木寛之遵西(じゅんさい)の声には異様な熱がこもっていた。 〈この男は本気だ〉と、綽空は感じた。 遵西のいうことには、たしかにうなずけるところがないでもない。 まず、上人は、愚者に徹して念仏せよ、と説かれている…

異端の渦の中で(七)

異端の渦の中で(七) 親鸞 248 五木寛之 遵西(じゅんさい)は語る。「この国に正式に仏(ほとけ)の教えが伝えられたのは、 百済の王家から大和の朝廷にもたらされたとされる。 釈尊が去られてから一千百年、仏の道は学問となり、国事となったのだ。 それ…

異端の渦の中で(六)

異端の渦の中で(六) 親鸞 247 五木寛之 遵西(安楽房じゅんさい)は、まるで熱にうかされたように語りつづけた。 「よいか、綽空(しゃくくう)、わたしの言葉にまちがいがあったなら、 そういってくれ。 まず、仏(ほとけ)の道は、釈尊にはじまる。 釈尊…

迫り来る嵐の予感 (十四)

初夏に咲くシャガ 卯辰山にて 迫り来る嵐の予感(十四) 親鸞 241 五木寛之「わたくしにとっては、綽空さまこそ観世音菩薩と思われてなりません。 死を覚悟したわたくしに、生きろ、あたらしく生まれ変われ、 と呼びかけてくださったのが、あなたさまでした…

法然上人の目 (五)

法然上人の目(五) 親鸞 203 五木寛之 「そのおつげのあったあとに、一人の女性(にょしょう)があらわれて、わたくしに告げたのです。吉水へ、おいでなさいませ、と」 「それでこの吉水へやってきたのか。 そしてきょうまで百日のあいだ、一日もかかさずわ…

選択ということ(九)

選択(せんじゃく)ということ (九) 親鸞 197 五木寛之 「だってすごく簡単なんですもの。仏さまのお慈悲を信じて、ただ南無阿弥陀仏ととなえるだけ。 そのほかのことは、なにもしなくてよい、 ただ、信じて、お念仏をとなえればよいといわれれば、 これほ…

吉水の草庵にて  (十四)

親鸞188 吉水の草庵にて (十四) 五木寛之 「目には見えずとも、この世界にはたくさんの仏さまがいらっしゃる。 それら数々のみ仏の中で、阿弥陀仏という仏さまは、この世に生きる哀れな者たちを決して見捨てない、と固く誓われた仏さまじゃ。 罪おおきわれ…

吉水の草庵にて  (十)

小説「親鸞」で、五木寛之は、実は自分自身を語っているように私には思えます。金沢が第二のふるさとと自認する五木さんのお話を何度もお聞きしたり、多くの著書を読んでそう思うのです。 吉水の草庵にて(十) 親鸞 184 五木寛之 やがて念仏の合掌が静まる…

吉水の草庵にて    (七)

吉水の草庵にて(七) 「親鸞」 181 五木寛之 「法螺房どの」 範宴はまっすぐに目をあげて法螺房(ほうらぼう)をみつめた。「正直に申します。 わたしはこれまで、自分なりに、必死で学んできたつもりです。 きびしい修行にも耐え、僧としての戒も守り、…