七カ条の起請文 (一)


 浅野川沿い  浜昼顔


〈あらすじ〉
恵信と結婚した綽空は、遵西から仲間に加われと迫られた。
彼らは念仏を逆手にとって人々に悪事を勧め、
法難による念仏の世の実現を画策。
それに乗じて黒面法師が、国家転覆を謀る。
弥七らは阻止すべく立ちあがった。

 
七カ条の起請文 (一) 親鸞 266  五木寛之


その日、綽空は六角堂で説法をしていた。
六角堂の境内の片すみに腰をおろして、少数の顔見知りの参詣者たちと、
雑談のような会話をかわすだけである。


「念仏さえすれば、どんな悪いことをしても地獄へいかずにすむ、
というのははんまかいな」などと尋ねられれば、
出来るだけわかりやすく答えようとした。
しかし、大事なことをやさしく話せば話すほど、
真実がずれていくことがある。
だが、型どおりの問答ではなく、どこまでも真剣に、
本気で答えようとする綽空の気持ちは、
おのずから人々に伝わっていくらしい。
綽空を囲む人々の輪が5人から、10人、15人となることもある。


「吉水が大変や!」と、大声で叫びながら駆けてくる男の声に、
みなが振り返った。
                      (新聞小説  抜粋)