七カ条の起請文 (一)
浅野川沿い 浜昼顔
〈あらすじ〉
恵信と結婚した綽空は、遵西から仲間に加われと迫られた。
彼らは念仏を逆手にとって人々に悪事を勧め、
法難による念仏の世の実現を画策。
それに乗じて黒面法師が、国家転覆を謀る。
弥七らは阻止すべく立ちあがった。
その日、綽空は六角堂で説法をしていた。
六角堂の境内の片すみに腰をおろして、少数の顔見知りの参詣者たちと、
雑談のような会話をかわすだけである。
「念仏さえすれば、どんな悪いことをしても地獄へいかずにすむ、
というのははんまかいな」などと尋ねられれば、
出来るだけわかりやすく答えようとした。
しかし、大事なことをやさしく話せば話すほど、
真実がずれていくことがある。
だが、型どおりの問答ではなく、どこまでも真剣に、
本気で答えようとする綽空の気持ちは、
おのずから人々に伝わっていくらしい。
綽空を囲む人々の輪が5人から、10人、15人となることもある。
「吉水が大変や!」と、大声で叫びながら駆けてくる男の声に、
みなが振り返った。
(新聞小説 抜粋)