異端の渦の中で (十)
遵西(じゅんさい)はなおも迫るように語りつづけた。
「われらは町の辻、村の道ばたで人びとに説いて回っている。
ひとたび念仏を信ずれば、どんな悪行も許される、と。
念仏者はみんな平等だ。仏の本願とは、悪人をまず救うということだ。
胸をはって堂々と悪人として生きよ。
火をつけるのだ、火を。
そして世間に大きな悪の渦巻きをつくるのだ。
そうすれば旧勢力は本気で弾圧にかかってくる。
法然上人にも、法難がふりかかるだろう。
我等は先頭にたって、戦い、そして死ぬのだ。
そうすれば念仏の声は国中に満ち、あたらしい仏道の時代がくる。
どうだ、綽空」
「わたしは法然上人の歩かれる道を、ただついていくだけです。
私はお仲間に加わる気はありません」
〈新聞小説 抜粋)