七カ条の起請文(三)

七カ条の起請文(三)      親鸞  268     五木寛之

信空が読み上げた7か条の文章の一つ一つが、
綽空の胸に矢のように突き刺さってくる。
上人が念仏者に禁じた7つの約束とは、

一、他宗を軽んじたり、世の仏や菩薩を誹謗しないこと。
二、念仏さえすれば戒を守る必要なしと豪語し、
  あえて淫酒肉食を人にすすめないこと。
三、自分勝手に仏法を論じ、何の根拠もない説をとなえぬこと。
四、五、六、七 

おおまかにいえば、それはごく当たり前のことを約束したにすぎない。

しかし、人間とはむずかしいものだ。 
阿弥陀仏ひとすじに帰命せよ、と教えられれば、
他の神や仏には目がむかなくなる。

そもそも悪人とても救われる、という教えと、
悪人こそ救われるのだ、という説のきわどい境目をどう人に説くのか。

殺生(せっしょう)一つとってみても、肉食をさけることはよい。
しかし、草にも、木にも、仏生があると比叡山でも教えているではないか。

すべての命が平等だとすれば、
わたしはそれを犯して生きざるを得ない悪人ではないか。
                     (新聞小説より抜粋)