自分が選んだ道だから
手紙をもらった時は「保険の資格」のことがよくわからなくて、
なんとなく聞き流していたのでしたが、
あの時郁代は私たち家族にほめて貰いたかったに違いありません。
郁代が他人の悪口を言うのを聞いたことがなかったし、
これまでに自分の頑張りを自慢した事もありませんでした。
がんばった自分を誇らしげに書いてきたのは初めてのことでした。
英語が母国語の人々に混じっての仕事についても、
これまでその苦労や、努力についても一度も語ったことのない郁代でした。
言われなくても、
どんなに大変だったか私にわからないはずがありません。
「自分が選んだ道だから」、郁代はここまで頑張れたのでしょう。
そのころ、あることで落ち込んでいた母を、
郁ちゃん、あなたは一生懸命励まそうとしてくれたんですね。
がんとわかったのは、その1年半後のこと。
「遠くにいて、お母さんを手伝うことは出来ないけれど、
私がこっちでがんばること、
健康で過ごすことがお母さんが喜んでくれることと思っています」
それが果たせなくなったと分かった時の郁代の胸中を思うと、
たまらなくなってきます。
郁代が八年間勤めていた会社の上司エディさんは、
郁代を生かし、育て、励ましてくださいました。
「病気になった時、お母さんより先にエディさんに相談したんだよ」
いつか郁代はそう言っていました。
自分が選んだ道だから 終