恵信の選択  (十一)

恵信の選択  (十一)       親鸞 286    五木寛之


「弥七どの・・・」
「恵信どのがここへ向かわれたという話を耳にして、
おそまきながらおいかけてきたんじゃ」
「かって清盛公全盛のおり、六波羅童(ろっぱらわっぱ)をひきいて、
飛ぶ鳥落とす勢いやった伏見平四郎が、
人買いの手下になりさがったとはな。情けのうて涙がでるわ」
「邪魔だて無用だ。綽空をつれて、おとなしく引き下がるがよい。
さあ、あれを見ろ。
かっての六波羅童も、いまは坂東武者にも劣らぬ強者に育っておるのだ」
そこには、
半弓に矢をつがえた十数人の男たちが二列にならんでかまえていた。
それと同時に、弥七の仲間たちが、するすると音もなく動き、
彼らの正面に壁をつくった。

                         (新聞小説 抜粋)