「そう〜れっ!」

介護ベッドを起こすと、
上体が少しずつ下にすべり降りていきます。
時々、体を引き上げるのですが、
一人でやるには、ちょっとしたコツがいります。


わたしが身体を持ち上げようとすると、
郁代が元気な声で、
「さあ、行くよ。そう〜れっ!」と掛け声をかけてくれました。


部屋の外で、声だけ聞いていたら、
母親が病人で、それを介護しているのは娘だと、
誰もが思ったことでしょう。


生きる場所が、どんなに狭くなっても、
自分がどんなにつらくても、
郁代はまわりの者を元気づけ、励まそうとしていました。