「もう いいんだよ」

郁代は、がんになった自分を許し、
最初の診断「胃潰瘍」も、
許せなかっただろうになんとか収めようとしました。


欠点だらけのこんな母を許し、
自分の思い通りには看護してもらえなかっただろうに、
「生んでくれてありがとう」
「お母さんのこどもでよかった」
といってくれました。


最期の夜、
「これまで完璧だったわ。
必要なことが、必要な時に用意されていたもの」
といい、わたしには世界を肯定していると思えました。


わたしが、病院内で起こった
「許せない思い」を抱えながらも、
「許そうとした」のは、
郁代の「もう いいんだよ」の声がいつも聞こえてきたからでした。


その日の明け方、郁代の様態が急変したとき、
不慣れな夜勤の看護師が一人だけで対応しました。
本人はパニックだったのでしょう。
ただの一度も、
「おおうらさん」とも「いくよさん」とも声をかけることなく、
終始無言で、マニュアルどおり、ただ機器を操作するのみでした。


前日入院したばかりの総合病院の緩和ケア病棟でしたが、
医師はだれ一人顔を見せませんでした。
1時間余りたって、「心停止」を見届けたのでしょうか。
担当看護師は無言で退室したまま、
その後も2時間近く、医師を含め病院関係者は誰もきませんでした。
「どうしてですか?」何度も聞きました。


病院にいながら、「今わたしは、沙漠の中にいる」と感じたのでした。
昼間の対応はとても親切だったのに、
夜間では、こんなに落差があるのですね。


夜間において、一般看護師がサポートを求められるように、
(病棟にとはいえませんが)病院内に1人でも、
主任看護師を配置して欲しいと願いました。



郁代、あなたはなぜ許せるのですか? 


「人は死ぬ。どう生きても死ぬ。
だとしたら、
この短い人生で人を恨んだり憎んだりしているような暇はないんですよ」



ランディさんのブログは、郁代からのプレゼントだったのですね。

「おかあさん、もう いいんだよ」