いつも想ったところに 

本を読まれたという美根子さんから、以前頂いたお手紙です。
とてもとても、うれしかったです。有り難うございました。
 

はじめまして!「あなたにあえてよかった」をまとめて下さったおかげで、郁代さんを知ることが出来ました。


いつくしみ育ててきた愛娘を、
発病以来病魔に奪われてしまうまでの悲しさ、
苦しさはいかばかりでありましょうや。
同じくらいの娘を持つ私には他人事とは思えず、
切なくて、一気に読み通すことができませんでした。
 

いよいよ〝旅立ちの日〟が近づいてくる…
身が凍るような思いで読み進みました。
母と子お二人の気持ちを察し、本当に胸が痛くなり、涙に暮れました。
私の心のよりどころであった郷里の父が、
末期がんのため他界した時と重なりました。
あの時は古里の鳥海山の横腹に、
大きな穴でもあいてしまったような感じでした。


通夜の時、郁代さんが読んでおられた「千の風になって」を、
お兄さんが語りかけるように読まれたそうですね。

 
 わたしのお墓の前で    泣かないでください
 そこにわたしはいません  死んでなんかいません
 千の風になって      千の風になって
 あの大きな空を      吹きわたっています


もう、どっと涙があふれ、文字がぼやけてしまって…。
ただ悲しいだけでなく、
「本当にそうだよね。
郁ちゃんは自由な風になってあの大空を駆けめぐっているんだ」
と思いました。
まるで郁代さんが自分のことを語っているピッタリした詩でした。
感動でした。
 

郁代さんって、若いのに何と老成の境地に達しておられたことか。
病と正面から向かい会い、
治療についてもしっかりと自分の考えを述べ貫いた、
みごとな最後でした。
読み終えて、悲しみのうちにも何かとても大切なものを、
この本は教えてくれているように思いました。
落ち着いたところで、深く考えてみなくてはならないテーマを含んでいる


郁代さんの生き方には、人間としての根源的なあり方、
「限りある命をいかに生くべきか、そしていかに死にゆくか」
という永遠のテーマが含まれています。
そしてもう一つ、
それはお母様を通して感じられる親と子、家族の絆のすばらしさです。
 

郁代さんの仕事への取り組みは秀い出たものがありました。
オーストラリアでやっていこうとした決断。
交友関係の豊かさは本当にうらやましく思いました。
もう、いくらも生きられないとわかった時、
自分の好きなことをして過ごそうとするのが人情でしょう。
その〝好きなこと〟が、郁代さんは〝お礼行脚〟でした。
職場の皆さん、そして、海外までもお世話になった方やお友達に、
自分の病は伏せてお別れに行っている…。


自分への厳しさと、人へのやさしさ。
これが誰にも愛された由縁でしょう。
 最後に郁代さんは
「やりたいことはみんなやったから…」とおっしゃったそうですね。


お母さんへの心遣いは勿論ですが、そればかりでなく、
短い命ながらその内容はすばらしく、
自らの意思で行動し完全燃焼されたのだと思います。
外国暮らしが長くなっても、娘の決断を遠くから見守っておられる。


旅立ち前夜、何も食べられない郁代さんが、
「みんなで食事しよう」と言いだして、
ご家族は心の中で泣きながらおいしそうに食べて、
郁代さんの願い「一緒に食事したい」を叶えてあげている。
これなど深く理解し合い、
ふだんから暖かい結びつきなくしてできるものではありません。
郁代さんはみなさんの愛を感じ、
幸せな気持ちの中で感謝して最後のときを迎えられたのです。


お母さま 悲しみを乗り越えられるにはまだまだ時間がかかりましょう。
「郁代さんがこの本を書かせてくれました」とありますが、
郁代さんがこんなにも皆さんに愛され慕われながら、
〝短くもその生涯を生きた証〟になりましたね。


私達読ませていただいた者にもひしひしと伝わるこの感動が、
お母さまを動かさずにはいられなかったのでしょう。
この本に出会えて本当によかった。ありがとうございます。
自分の生き方や、
家族とのかかわりを改めて見つめ直すきっかけになりました。
もっともっと、家族やまわりの人達と、
慈しみ合っていかなくてはと思っています。
毎日のように悲しい事件が起こっている昨今です。


私は晴れた日の朝露のしずくを見る時、
亡き人の霊を感じ、合掌し、しみじみと心の中で会話します。

 
お母さまのおかげで、私のようにたくさんの人が郁代さんを知ることができ、
感謝しています。
誰からも愛され慕われ、しかも自律的に生き抜いた郁代さんの生き方、
あたたかい絆で結び合われたご家族のあり方、
人は慈しみ合ってかくも素晴らしい在り方が出来ることを、
悲しみを昇華してこの本は教えてくれました。
ありがとうございました。
 

ふと目を上げれば、水色の空にうっすら白い雲が流れ、
緑の野にススキの穂が頭をもたげ、虫たちが鳴き競っています。
山里はとても静かで、
時折そっと木々の葉を揺らして風が通り抜けていきます。
目をつむると、郁代さんが微笑んで振り向いて、
窓越しに手を振っていかれたような…そんな気持ちになりました。
 

まだまだお母さまには、
愛すべき家族やつながりのある方達がたくさんいらっしゃいます。
なにより、郁代さんが応援してくれています。
いつも想ったところに 郁代さんはいらっしゃいます。
どうぞ、お元気で!
                  (一部省略させていただきました)