『わが町』

川の向こうの梨畑


妹に誘われて、昨日は俳優座劇場公演『わが町』観劇、
会場が金沢市文化ホールでした。

冒頭と最後に全員で歌われる
「いつまでも くりかえす 宇宙の営み」。
ささやかな日常を生きる一人一人が、
大いなる宇宙の永遠の流れの一粒一粒であることや、そのかけがえのなさに、
生きている間はほとんど気づくことがないということが浮かび上がります。

ソートン・ワイルダーが1938年に書いた、アメリカの架空の町に住む人々の1901年ごろの物語として展開する世界は、
その奥にどの町のどんな時代の物語としても通じる普遍性を持っているものの、
やはり現代日本の日常感覚とは遠く、
その手立てを音楽に求めたのが今回の音楽劇『わが町』。

透明な歌声の土居裕子さんをはじめ、
文学座俳優座などからの出演者によるプロデュース公演でした。

原作同様、進行役の説明に従って、物語はその説明の劇中劇のように展開します。
隣り合う家族、ギブス家とウェブ家を中心に町の日常を描く第一幕、
その両家の長男ジョーと長女エミリーの恋愛と結婚を描く第二幕、
そしてエミリーの葬式を通して、この町の墓に眠る人々を描く第三幕と、
原作そのままの流れだが、一つだけ変えたのは・・・。

それは最後の葬式のシーンを、冒頭にプロローグとして加え、
そこから始まる物語としたこと。

それは、永遠に繰り返される生を死者の側から見返すという、
この戯曲の根底に横たわる主題を強調する作りでした。

そのことによって、第一幕早々に進行役によって語られる、
ギブス夫人がギブス氏より早く亡くなったという話題や、
新聞配達の少年が戦死したという話題が心に残っていきます。

このように元気に今を生きている人も、いつか必ず死ぬということ、
そしてそれは思いがけない形でふいに訪れるということが、頭の片隅に棲みつくように。

幼子を残してあちらの世界へ行った、エミリーからのメッセージ
「怒ったり、喧嘩したり、嘆いたりと、あくせく過ごしているけれど、
生きている時間のかげがえのなさに、気づいてほしい」が、
郁代の声となって届きました。

エミリー役土居裕子さんの、透明でりんとした歌声の美しさが心に沁みました。