ある ある ある

高山別院での中村久子展について書いたところですが、
教育テレビ「こころの時代」でも放送されたことがあります。

逆境をあるがままに生きるー中村久子と歎異抄ーより      

     ある ある ある

 
     さわやかな
     秋の朝
     「タオル 取ってちょうだい」
     「おーい」と答える
     良人(おっと)がある

 
     「ハーイ」という
     娘がおる

 
     歯をみがく
     義歯(いれば)の取り外し
     かおを洗う


     短いけれど
     指のない     
     まるい
     つよい手が
     何でもしてくれる
 
     
     断端(だんたん)に骨のない
     やわらかい腕もある
     何でもしてくれる
     短い手もある
 
     
     ある ある ある
 
     
     みんなある
     さわやかな
     秋の朝 

久子さんの晩年の心境が語られた詩です。
歎異抄』に出会う前の心にあった坩堝(るつぼ)のような苦しみから解放され、
秋の空の高見へと突き抜けていくような澄み切った輝きに満ちています。


煩悩具足(ぼんのうぐそく)の凡夫(ぼんぶ)、
火宅無常(かたくむじょう)の世界は、
よろずのこと、みなもって、そらごとたわごと、まことあることなきに、
ただ念仏のみぞまことにておわします。
                         『歎異抄

        (平成9年6月29日、NHK教育テレビ「こころの時代」)