医学論文に載った手紙 3
冬の陽に照らされて、タンポポがさいていたよ。
医学論文に載った手紙、最終回です。
白雪姫プロジェクトにもリンクされている、
医学論文「意識障害の成因と神経系脱分極現象」 柳本広二の後半より
〈別の方より〉
「わたしとかっこちゃんは何が違うのでしょうね。
かっこちゃんと宮ぷーさんのことを知ったときに、
二人はなんて恵まれているのでしょうと思いました。
二人はいつも幸せそうで、私たちはどうしてこんなに不幸なんだろうと思いました。
けれども、つい先日、かっこちゃんと宮ぷーさんはリハビリの先生がついていないんだということに気がついたのです。
全部リハビリを(山元さん)お一人でされているんだということに衝撃を受けました。
前から書いてあったようでしたが、読み飛ばしていたのかもしれません。
そのことに気がついて、私は全てについて気がつきました。
私はこれまでいつも人を責め続けてきました。
主人が倒れたのは自業自得。
主人はアルコール中毒でした。
毎晩の飲酒をやめられなかったのです。
毎晩飲まない方がいいとあれほど言ったのにと主人を責めました。
たばこも倒れる3年前まで一日に一箱以上。吸い過ぎでした。
主人は自分のせいで自分が倒れたのだから、それはもうしかたのないことだとしても、
なぜ私の人生まで変えられなくてはならなかったのかと主人を責めると、
主人は口から言葉を出せないのですが、顔をゆがめて泣くのです。
宮ぷーさんの倒れた状態を知ったときに、主人の方がましだったのです。
意識がなくなったのは、ほんの数日のことでした。
最初から手も少し動いていました。
それなのに、尿管も外せずに座ることすらできずにいます。
医者が悪い、看護師が悪い、病院選びがまずかったのだと、
搬送した救急車も責めました。
ひどい医者と看護師、OTやPTに嫌気がさして、けんかをして、
転院しても事態は変わりませんでした。
主人は少しはよくなる兆しがあっても自分の言いたいことを伝えられるような方法をきちんと教えてもらえず、とうとうリハビリも切られて、
ただ、死を待つだけなんだなと思いました。
そしてそのたびに、主人を責め続けました。
あなたが自分勝手に、私や家族の人生までめちゃめちゃにしたのよと。
これじゃあ、まぐろと一緒でしょう。
人間なら座りなさい。
ちゃんと話をしてちょうだい。
ちゃんと直りなさいよと主人を責めて、ベッドのそばで泣く毎日でした。
それでも、主人は私が来ると、私の方をじっと見て、
待っていた様子を見せるのです。
宮ぷーさんの回復には、よほどすばらしいPTやOTがついておられるからなのだと勝手に思い込んでおりました。
誰のことも責めないかっこちゃんと、
全てのことを誰かのせいにし続け、
誰かを責め続けてきた私に気がついたのです。
リハビリを切られた今は、それは看護師や介護士の仕事と思い、
いっさいリハビリから目をそむけていた私にも気がつきました。
気がついて、昨日主人に話をしました。
かっこちゃんと宮ぷーさんの話をしました。
「あなたを責めてばかりいてごめんなさい」と言いました。
主人は顔をゆがめてまた泣いていました。
私はこんなに責めていても、主人を愛しています。
だから、毎日来ていたのです。
主人も私を愛してくれています。
今から何かが変わっていけると思います。
私も主人も何かが変われると思います。
かっこちゃんと宮ぷーさんに感謝の思いを伝えたくて…」
手紙の転載は以上です。