「目から鱗が百枚落ちた」

月刊『清流』1月号の平 安寿子さんの連載は、
東田直樹著「自閉症の僕が跳びはねる理由」の読書体験のお話でした。
目から鱗が百枚落ちた」そうです。

頭を使わずに体を動かし、もって生まれた力を使いたいと、
平さんはおっしゃいます。
NHKのドキュメンタリー番組を見られて、大感動され、
この本を読まれたそうです。

(抜粋)
自閉症の人たちがコミュニケーションを苦手とするのは、
五感の精度がものすごく高くて知性を凌駕するからだと、わたしは感じた。
ことに視覚のレベルがずば抜けている。
東田さんによると、文字も絵や記号として受けとれるし、
記憶もひとつの場面として頭の中にファイルされるそうだ。
ただし、記憶を取り出そうとすると、ファイルがどこにあるかわからないから苦労する。

自閉症の人たちは「今」という瞬間の感受性が桁外れに強い。
青い空をみると、空に吸い込まれそうになる。
桜の花吹雪の中にいると、美しさに胸を打たれて泣いてしまう。
電車に乗ると、風景が流れていくのに見とれる。

東田さんが好きな音は、風の音と、水の流れる音だそうだ。
自然の営みが繰り出す音だ。

東田さんは、目に入るものに注意を奪われる。
だから、たとえば人の話を集中して聞くことができない。

注意が他にそれてしまうのは性格的な欠陥ではなく、
発達した視覚と聴覚が集中力を横取りするからだ。

自分でもコントロールできない、このような状態でなぜ生まれてきたのか、
彼は自問自答し、ひとつの答えを導き出した。それは、
「原始人が持っており、今は失われた感覚を現代人に教えるためではないか」と。

ここでわたしの目から、鱗が百枚落ちたのです。

言葉を持つ前の原始人はこのように、
発達した五感を頼りに生きていたはずだ。
逆に言うと、それしか必要なかった。

読み終えたとき、わたしは彼がうらやましくて仕方なかった。
空や風や緑や水と一体化できるなんて、想像すらできない夢の境地だ。
彼自身、世界がこんなに美しいことをみなさんに知らせたいと書いている。