『ブンナよ、木からおりてこい』

先日(23日)は、偶然にも“畑のかえるさん”が、
『ブンナよ、木からおりてこい』 の朗読をアップされていて、感動したものです。

5日後に、劇団青年座『ブンナよ、木からおりてこい』を見ることになっていたからです。

昨日、観てきました。

作=水上勉
補綴=小松幹生
演出=磯村純

生き物は、他の命を奪ってまでも、食べて行かなければ生きられない。
でも自分が死にそうになったら怖くてたまらない。
この作品の中では主人公の蛙さえ他の命を取って食べている。
そしてそれを正々堂々と受け止めている。
へびも、ねずみも、すずめも、もずも、鳶さえも、「悪役」ではないのです。

〈ものがたり〉
この世にはもっともっと広く、平和で、仲間の殺されない未知の国がある。
そんな思いを胸にトノサマ蛙の子ブンナは
住みなれたお寺の境内にそびえ立つ椎の木に登ります。
やっとの思いでてっぺんまで這い上がったブンナ。
そこには、ブンナがもぐり込むことの出来る土のたまった空間があった。
太陽が輝き、風に草花がそよぎ、うまい虫までが飛んでいる。
天国だ――!
しかし、そこは鳶の餌ぐらだったのです。

次々と連れてこられる傷ついた雀、百舌、鼠、蛇たち。
彼等は「死」を前に壮絶な戦いを繰り広げる。
天国から地獄に突き落とされたブンナ。
土の中で怯え、慄きつつ、なを生きることを考える。
季節は秋から冬へ、そして長い長い冬眠――。

春がやってきた。
眠りから覚めたブンナは鼠から生まれ出てきた虫たちを食べ、
仲間が住むお寺の庭へと降りて行くのでした。

もり さわこさんの朗読を聞くことができます。

第4章 ブンナよ、いつでも死ぬ覚悟ができているか 

「いやだ、いやだ、たべちゃいやだ」
ところが、このとき、雀は急にこんなことをいったのです。
「百舌さん、いいことを思いついた、昨日の夕方ね、
ここにかえるがいたんだよ。
青いうまそうなかえるだったよ。
きっと、まだ、この近くにいるかもしれなくてよ」
ブンナはちじみあがりました。
・・・・・
「かえるくん、もし、下にいるのだったら、ごめんよね。
かえるくん、弱いってことは悪いことではないよね。
かなしいことにちがいないけど、弱いことはわるいことではないよね。
かえるくん・・・かえるくんだって、弱い仲間だよね。
ね、ね、あたしをゆるしてよオッ、
そうでないと、あたしは・・・生きてゆけないッ」


第10章 ながい冬をブンナが木の上でかんがえたこと

鼠はてっぺんで屍をさらしていましたが、
いつのまにか、それはたくさんの虫となり、羽をはやした蛾になったのです。
これを、ブンナはみんなおいしくたべたのでした。
ブンナは、そのおかげで、たらふく腹ごしらえができ、
いてた冬を、土の中ですごすことができました。


最終章 ブンナよ、大地におりて太陽へさけべ

「自分は自分だけと思ってたけど、
自分のいのちというものは、だれかのおかげで生きてこれたんだ・・・
ぼくらのいのちは、大ぜいのいのちの一つだ・・・
だから、だれでも尊いんだ。
つらくて、悲しくても、生きて、大ぜいのいのちのかけはしになるんだ・・・」
ブンナは力づよくいったのです。

「ブンナよ、木からおりてこい」  水上勉・著  (新潮文庫