さんまの歌

家族の一人が東北の被災地支援を熱心に続けていて、
時々海産物が送られてきます。

昨日は宮城県気仙沼直送、ピカピカに光った生サンマ(10匹)が届きました。

早速、刺身に、塩焼きに・・・、
ホッペが落ちるほどおいしかったです。

酒、みりん、しょうゆ、砂糖で味付けし、
今日はサンマの蒲焼が待っています。



さんまの歌が浮かんできました。
     
        さんまの歌
                 佐藤春夫

       あはれ
      秋風よ
      情(こころ)あらば伝えてよ
      ----男ありて
      今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり
      さんまを食らいて
      思いにふける と。

       さんま、さんま
      そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて
      さんまを食うはその男がふる里のならひなり。
      そのならひをあやしみなつかしみて女は           
      いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかいけむ。
              
       あはれ、人に捨てられんとする人妻と
      妻に背かれたる男と食卓にむかへば、
      愛うすき父を持ちし女の児は
      小さき箸をあやつりなやみつつ
      父ならぬ男にさんまの腸(はらわた)をくれむ
      と言ふにあらずや。
      ・・・・・

      さんま、さんま
       さんま苦いか塩っぱいか。
      そが上に熱き涙をしたたらせて
       さんまを食うはいずこの里のならひぞや。
      あはれ
       げにそは問はまほしくをかし。          


佐藤春夫明治25年和歌山県新宮に生まれた。
少年時代より文学者たらんことを望み、中学卒業後直ちに上京した。
間もなく慶應義塾に入学・・・5年後、春夫は慶応義塾を中退した。

大正8年に、春夫は谷崎潤一郎と出会う。
春夫は潤一郎から文学的に大きな刺激を受け、兄弟同様の交際を続けた。
このころ、夫潤一郎に疎まれていたその妻千代に同情していた春夫の気持ちがいつしか愛情に変わり、やがて千代をめぐって春夫と潤一郎の間に確執が生じ、遂に両者は絶交してしまった。

7年後、両者は和解し、潤一郎の了解を得て、春夫は潤一郎の妻千代と結婚することになる。

「さんまの歌」は、この絶交期間中に、自身が妻に逃げられた春夫の、
千代に向けた思慕の歌であった。