入試の作文は「春」

郁代はエピソードの多い子だったなあ。
いつもびっくりさせられ、次第に私の方がそのことを楽しんでいたように思います。

「あなたにあえてよかった」にこんな場面があるのですが、
春になると思いだして笑ってしまいます。
そして・・・涙が出てきてしまうのです。



中学三年になると高校受験のため、バドミントンの部活動は秋に終わる。
「お母さん、エレクトーン買ってほしいんだけど…。今から習いに行くことにするわ!」
小学生の時には、ピアノを習っていたのに、
中学生になると、部活動が忙しくなってやめたのだった。
「受験のために習い事を止める話は聞くけれど、今から始めるのは聞いたことがないわ」
「私が勉強しないこと、一番知っているのはお母さんでしょう?
時間をもてあまして退屈なんだもの」
「あんたの勉強するの見たことないわ」と以前私が言ったとき、
「学校の授業をちゃんと聞いているから大丈夫なの」と、郁代は答えたのだった。

 二日間ある高校入試の一日目を終えた郁代は、
「今日は練習日だからエレクトーンにいってくるわ」
「どうぞ、お好きなようになさいませ」
母は、ビックリ劇に少しずつ慣らされていった。
「明日も試験なのに練習に来るなんてあんただけだわ!」
先生の方が仰天したと聞いた。

「(二日目の)入試の作文の題は『春』だったけど、最近ニャンコと遊んだことをそのまま書けば良かったから簡単だった。
田んぼのあぜ道を追っかけっこしていたら、風は暖かくつくしが出ていて、春があっちにもこっちにも感じられたんだよ」

試験を終えて帰宅した郁代は楽しそうに言った。
郁代は、「自然」と言う学習塾へ、毎日、真面目に通っていたのだった。