全身全霊で祈った



新聞のエッセイを読んで、私のことを言い当てているなあと思いました。
・・・ 自分が長い間、間違えていたと思った。
   神さま仏さまを自分のために信仰していた・・・



全身全霊で祈った   竹山 洋  
               (大河ドラマ利家とまつ」脚本を担当)

 

南無阿弥陀仏ッ」妻はその時、大声で叫んだという。
私はその時、神楽坂の善国寺の境内にいた。
大地が鳴動し、ビルや家が軋む様を茫然とみていた。
「南無妙法蓮華経・・・南無妙法蓮華経・・・」。
立ち尽くしている人々の中から声が聞こえた。
私も自然に経文を称えた。
若者達が携帯を見て、仙台は震度7ですと言った。


その時、私は自分が長い間、間違えていたと思った。
(神さま仏さまを自分のために信仰していた)
なぜかは解らない。直感的にそう思った。


(地上が平穏で安らかでありますように)
今まで一度たりとも、そう祈ったことはなかった。


自分の人生が豊かになるようにと、己の欲のために神仏とつき合って来た。
私は誤っていた。
心の底から、そう思った。


家に戻ると、守護仏の妙見大菩薩の木像が転がり落ちていた。
この木像は、お万様に縁のある身延山久遠寺から頂戴したものである。
私の身がわりになってくれたのだと思った。
(中略)


妻が戻って来た時、又、大きな余震が来た。
私はバルコニーに出た。


(私の命を奪って下さい。
これ以上のことをなさるのをどうかおやめくださいッ、
私の命を天に差し上げますから、どうか、大地の鳴動を鎮めてくださいッ)


全身全霊で祈った。


こんなことは初めてのことだった。
自分の命は奪られるかもしれないが悔いはないと思った。
(後略)

                        (北國新聞3月30日)