雨は降るときは降る

ヤマボウシ



新聞連載「親鸞」(五木寛之・作)140より転載しています。


(前略)
親鸞ー」
と、サトはよびかけた。
「白山(しらやま)の神からのおことづけじゃ。
雨は降るときは降る。
降らぬときは降らぬ。
気にせずに、ひたすら念仏せよ。
七日の行(ぎょう)がまっとうできても、できなくても、
それはそなたの知ったことではない。
われらは、そなたを見守るぞ」


「なにをいってやがる、えらそうに」
長次がぺっと唾を吐いて、
「宗元、おめえさんがあがめたてまつるから、
いつまでもキツネがはなれないんじゃねえのか。
さあ、この小娘をなんとかしろ。
だいたい声が気味わるいんだよ。
そなたたち、だとさ。
こんな小娘、わざわざ苦労して助けだすんじゃなかったぜ」


「なにをいう。サトさまは・・・」
宗元の声が大きくなると、
様子をうかがっていた警護の武士の一人がちかづいてきた。
「おまえら、なにを騒いでおる。静かにせよ」
「申し訳ありませぬ」
鉄杖が頭をさげて謝った。
親鸞の念仏は、かろうじてまだ続いている。