聞き上手

私の歩く道


私には空白の8年間でしたが、
郁代との思い出を多くの友人が知らせてくださったので、
オーストラリアでの生き生きとした郁代に出会え、本当にうれしかったのです。
日曜日に鈴鹿から来てくださった純子さんからの手紙、本に載っています。


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聞き上手な郁ちゃん    純子   

 
 私と郁ちゃんとの出会いは一九九六年十一月中旬だったと思います。
日豪ワーキングホリデー協会主催の少し早いクリスマスイベントでした。
お互いまだシドニーでの生活を始めたばかりで、
日本人、オージー(現地人)に拘わらず、
とにかく友達を作りたい一心で参加したその場で、
偶然にも知り合うことが出来ました。


それ以来、あっというまに仲良くなり、
郁ちゃんが、彩、大原氏とシェアしていたボンダイジャンクションの高層マンションにかなり頻繁に通い詰めていました。
 まだ始まったばかりのシドニーでの生活で、
夢、希望、今後の不安、言葉の壁等、
とにかくいろいろな不安や感情が入り混じって、
とても落ち着かない時期でした。


そんな時に郁ちゃんに電話すると決まって、
「じゃあ、これからうちにおいで!」
郁ちゃんや彩の手料理。
オーストラリアならではのスイーツやスナック菓子を食べ、
そしてオージービール片手に、
いろんなことをぶちまけて、
悩みを聞いてもらって、
最後は「頑張ろう!」と励ましあって…。
当時は本当に助けられました。
その分みんな体重増の悩みも消えませんでしたが…。


その頃から郁ちゃんは、
既にキャリアウーマンへの一歩を踏み出していて、
フルタイムでしっかり働いていたのに、
平日だろうが週末だろうが、夜中までとことん付き合ってくれました。
 

今でも思うのですが、
郁ちゃんのすごいところは、
ものすごく聞き上手なことです。


だからといってただ相槌を打っているだけではなく、
話をすばやく把握して、
本当に親身になって気の効いた一言を常にかけてくれる子でした。
お世辞ではなく郁ちゃんのそういう淡々とした暖かさ、
優しさが大好きで、郁ちゃんの言うことだと、
なぜか素直に聞き入れることが出来ました。

 
シドニーを発ち、当てのないオーストラリア一周旅行に出た時も、
よく思い出しては郁ちゃんの会社に電話を掛け、
近況報告をしたものでした。


その時も、「ちょっとー純子、ちゃんと生きてる?心配してたよ。
早くシドニーに戻っておいで」と優しく受け答えしてくれました。
貧乏バックパッカーだった私がシドニーに戻るたびに、
いつもご馳走してくれて泊めてくれて。
向こうのベッドはとても大きいので、
郁ちゃんの隣りでよく寝かせてもらいました。
私とは対照的に、
郁ちゃんは仕事のキャリアもばりばり積んでいるはずなのに、そんなことはおくびにも出さず、
私の珍道中をとても楽しんで聞いてくれました。

 
今になって改めて思うのですが、
郁ちゃんは陰できっとものすごい努力をしていて、
それも認められているのに、
そういうことを全く表に出さない人なのですね。
それよりも、その場を和ませる為に、
わざとおどけたふりをして、皆を楽しませてくれました。
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あなたにあえてよかった

あなたにあえてよかった


 人の話をとても上手に聞く小さな女の子が主人公の『モモ』(ミヒャエル・エンデ)が、
郁代の部屋に残されていたことを私は思い出しました。
                             (再掲)