すきとほった風ばかりです

    


先日のリレーおぴにおん 「没後80年、賢治を語ろう」(A新聞)は、
青木新門さんでした。

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そんな時にであったのが、宮沢賢治の「眼にて云ふ」という詩なんです。
病に倒れ、話すこともできない臨死体験のような状況を描いている。

「だめでせう  
とまりませんな  
がぶがぶ湧いているですからな  
ゆうべからねむらず血も出つづけているもんですから・・・」

という書き出しです。
ところが、その詩の最後はこうです。
  
「あなた方の方から見たらずいぶんさんたんたる景色でせうが
わたしが見えるのは  
やっぱりきれいな青ぞらと
すきとほった風ばかりです」
これを読んで、腑に落ちた。
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東日本大震災の後、宮城県の被災者の方々の前で、
お話する機会がありました。
その時、「眼にて云ふ」を朗読したんです。
みなさん亡くなった人たちに、
『寒かっただろう』
『痛かっただろう』との思いが胸につかえておいでです。
こうお伝えしました。

「亡くなる時はきっと青空を見ておられたのですよ。
そして、『いままで、ありがとう』と言いながら逝かれた。
そう信じていますよ」
そしたら、一番前におられたおばあちゃんが、
「やっと、こころが救われました」
と、話しかけてこられた。うれしかったです。
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             眼にて云ふ    宮沢賢治  
 
     だめでせう
    とまりませんな
    がぶがぶ湧いてゐるですからな
     ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから
     そこらは青くしんしんとして
    どうも間もなく死にさうです
    けれどもなんといゝ風でせう
     もう清明が近いので
     あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに
    きれいな風が来るですな
    もみぢの嫩芽と毛のやうな花に
     秋草のやうな波をたて
     焼痕のある藺草のむしろも青いです
    あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが
     黒いフロックコートを召して
     こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば
     これで死んでもまづは文句もありません
     血がでてゐるにかゝはらず
     こんなにのんきで苦しくないのは
     魂魄なかばからだをはなれたのですかな
     たゞどうも血のために
    それを云へないがひどいです
    あなたの方からみたらずゐぶんさんたんたるけしきでせうが
    わたくしから見えるのは
    やっぱりきれいな青ぞらと
    すきとほった風ばかりです。
 
          ☆嫩芽(わかめ) 藺草(ゐぐさ) 魂魄(こんぱく)