〈折々の言葉〉 82 

ハンゲショウ(カタシログサ)

〈折々の言葉〉 82   鷲田清一 

   兵隊は地図を見たことがありません。  
                           浜田知明
 
どこへ行くかも知らされぬまま行軍する日本軍砲兵隊を、
浜田はアリの行列のように小さく描いた。
その絵に釘付けになった美術評論家酒井忠康は、図録「浜田知明の世界」にあった右のことばにふれ、こう書きつけた。

「この一言は、わたしに兵隊の存在がいかなるものであったかを考えさせ、寒気がした」。

兵隊に行軍を命じる上官もしかし、アリのように小さかった。
                                       2015・6・23

* 半夏生(はんげしょう)
7月2日頃。夏至から数え て11日目頃。
梅雨の末期で多湿で不順な頃。
ハンゲショウという草の葉が名前の通り半分白くなって化粧しているようになる頃とも。