折々のことば

彼らは命令しないのです

近くの鎮守の森 〈折々のことば〉 327 鷲田清一彼らは命令しないのです。 半藤一利1944年秋、零戦で敵艦に体当たりして散る特攻作戦が軍令部で起案された。 ある幹部が航空隊副長を言いくるめるため、 副長に任せるという上官の架空の意思を伝えると、 …

もう何も失いたくねえ

街を歩いていたら、 う〜ん いい香りが・・・一瞬、しあわせな気持ちになりました。垣根に沈丁花が咲き始めていました。 〈折々のことば〉 320 鷲田清一知らないうちになくなっていることも多いし、 なくなっていることすら、気づけねえこともある 復興途中…

落ち穂拾いの小さな足音にこそ耳をそばだてたい

〈折々のことば〉 305 鷲田清一時の流れがね、落っことしていったものを一番後ろから拾いながらトボトボと行くっていうのが、私には合ってるかなって思うんです 中島みゆき 時代の浮かれの中で目もくれられずまたぎ越されてしまうもの、 時代の厚い雲にさえ…

「これもいい」「あれもいい」

小林カツ代さんのお元気で明るい声が聞こえてきそうです。 〈折々のことば〉 302 鷲田清一 「これもいい」「あれもいい」という発想のほうがおいしい料理を作れる。 小林カツ代 すぐに作れるおいしい料理を紹介し、忙しい親たちに支持されていた料理家は、 …

目は臆病 手は鬼

金沢城入口に置かれていた 雪だるまファミリー 〈折々のことば〉 287 鷲田清一 目は臆病 手は鬼 三陸地方に伝わることば 気仙沼のある魚問屋でのこと。 大にぎわいの宴席のあと、下げた食器の山を見てため息をついていると、 一家の母がこう言ったという。途…

忘れてええことと、忘れたらあかんことと・・・

カリフラワー 〈折々のことば〉 283 鷲田清一 忘れてええことと、忘れたらあかんことと、ほいから忘れなあかんこと 河瀬直美 神隠しにあったのか、幼い息子が行方不明になってかなりの時間が経つ。 その父親が自分に言い聞かせるかのようにこうつぶやく。 大…

富士山はいきなり高いんじゃなくて

〈折々のことば〉 239 鷲田清一富士山はいきなり高いんじゃなくて、裾野が広いから高いんだよね。 柳家小満(こまん) 富士の裾野には、足がすくむような原始の深い樹海があり、 反対側には製紙工場の細長い煙突群がある。 いくつもの登山口がある。 稽古を…

この世を見るために 生まれてきた

二度咲きのなでしこ 〈折々のことば〉 224 鷲田清一私たちはこの世を見るために、 聞くために、生まれてきた。 だとすれば、何かになれなくても、 私たちには、生きる意味があるのよ 元ハンセン病患者役のせりふ ある時、ある場所から見つめている者がいると…

禍福は

人参畑 〈折々のことば〉 219 鷲田清一 禍福は糾(あざな)える縄の如(ごと)し ことわざ食でも性でも、満たされた後、それ以上は苦痛でしかなくなる。 病苦は、ときにそれをきっかけとして家族に固い絆をもたらす。 一代で財をなした人は財産のわずかな目…

穢れたままで救うということ

紅葉に衣替えするのは三週間後、心待ちにしている方もおられることでしょう。家から歩いて10分、 太陽が丘“メタセコイア通り”(冬ソナ通り)の今をお届けします。 〈折々の言葉〉 211 鷲田清一祓(はら)いのけることはしないで、穢(けが)れたままで…

唄を忘れた金糸雀

浜離宮恩賜庭園 10月桜 ベニバナトキワマンサク 銀座の街路で 〈折々のことば〉 196 鷲田清一 唄を忘れた金糸雀(かなりや…唄を忘れた金糸雀(かなりや)は うしろの山に棄(す)てましよか いえ、いえ、それはなりませぬ 西条八十 八十には若い頃、象徴派の…

わたしは悪い人になってます

〈折々のことば〉 186 鷲田清一今日だけわたしは悪い人になってます。 岩手県大船渡の元看護師 3月11日の地震のあと、 潰れた家の下から助けを求める手が上がっても振り向けず、 彼方(かなた)に妹の家が津波に流されたのを認めても、 それでも、心臓の…

悲しいときは

〈折々のことば〉 155 鷲田清一妻が逝って、私は、空ばかり写している。 元気になんか、なりたくないね。 荒木経惟(のぶよし)悲しいときは悲しむだけ悲しんだほうがいい。 こころが空っぽになれば、 その空しさをそのままおもいっきり表したほうがいい。妻…

小さき者の声

サラシナショウマ 上高地にて 〈折々のことば〉 150 鷲田清一緑児(みどりご)は言わば無意識の記録掛りでありました。 柳田国男 ことばはいつも「活気と新鮮味」を求めて刷新される。 そのとき、幼子の思いもよらぬ表現に、逆に大人たちがかぶれ、 ことばの…

あるとき不意に向こうから

〈折々のことば〉 146 鷲田清一「わかる」ということには、言葉がはじかれている領域がある。 小池昌代お経の勉強などしたこともなく、だからたぶんお経も呪文のようなものなのだろうに、 詩人の母は「聞いていればわかる」と言う。 お経の意味は、繰り返し…

中原中也

中原中也のほがらかとは・・・を読んで、以前書いた記事を思い出しました。金沢ふるさと異人館の中原中也展 山羊の歌より 「汚れちまった悲しみに……」汚れちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れちまった悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる汚れちまった…

ほがらかとは・・・

ピーナツ畑 〈折々のことば〉 135 鷲田清一ほがらかとは、恐らくは、 悲しい時には悲しいだけ 悲しんでられることでせう? 中原中也 「ほがらか」とは、明るく光るさま。 悲しみが明瞭すぎて、惑うところがない。 それほどにくっきりと悲しい。 そんなときは…

ハードルにぶつかって転びそうになったら

トノサマバッタ 〈折々のことば〉 116 鷲田清一ハードルにぶつかって転びそうなのをグッと立て直す能力は、 都市から離れれば離れるほど高くなる。 為末大 バランスを崩して転びそうになったときの回復力は、 整備されたトラックで練習する都会の子より、 ぬ…

なみだは いちばん小さな 海です

私の子供時代、能登の海辺に住んでいました。 郁代も、祖父母が住んでいたこの海で泳ぎました。 能登島に囲まれているので、年中波が静かでした。 〈折々のことば〉 108 鷲田清一なみだは にんげんのつくることのできる いちばん小さな 海です 寺山修司 どう…

この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる

きょうは雨 トマトも、とうもろこしも、梨畑も、樹も、 みんな喜んでいます。“無数のつっかい棒で支えられている生命・・・” と書いた同じ日に届いたメッセージです。〈折々の言葉〉 104 鷲田清一 この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる ティク・ナット・ハ…

〈折々の言葉〉 82 

ハンゲショウ(カタシログサ) 〈折々の言葉〉 82 鷲田清一 兵隊は地図を見たことがありません。 浜田知明 どこへ行くかも知らされぬまま行軍する日本軍砲兵隊を、 浜田はアリの行列のように小さく描いた。 その絵に釘付けになった美術評論家の酒井忠康は、…

〈折々の言葉〉 69 

〈折々の言葉〉 69 鷲田清一 父上様 母上様 三日とろゝ美味(おい)しうございました。 干し柿、もちも美味しうございました。 円谷幸吉 「もうすっかり疲れ切ってしまって走れません」に至るまでに、 兄姉、おいめいなど31人の近親に向けた、食べ物、洗濯…

〈折々の言葉〉 75

ツバメの服は黒いとばかり思っていました。 高い電線、またはスイ〜っと目の前を横切るばかりで、 近くからじっくり見ることはありませんから。河原にいた“黒い幼鳥”を離れたところから・・・パチリ。 撮った写真を見て、びっくり仰天!!ええ〜っ!ツバメっ…

〈折々の言葉〉 56

嬰児のほほ笑みが真の出会いをもたらし、 われわれを深く慰めてくれる・・・に、肯くばかりでした。 〈折々の言葉〉56 鷲田清一貧しさこそ、真の出会いに必要であるということは、 われわれを深く慰めてくれる。 霜山徳爾 聖書の「心貧しき人は幸いである」…

〈折々の言葉〉 53

〈折々の言葉〉 53 鷲田清一今年はようお照らしがありまして 〜門徒のおばあさん〜 石川県に帰省した僧侶のもとに門徒さんから大きな白菜が届けられる。 「みごとな白菜ですね」と言うと、 自分の努力や工夫については一切口にせず、 自分はほんのささやか…

〈折々のことば〉 51 

朝日新聞朝刊1面で、 4月1日から「折々のことば」の連載が始まりましたね。 筆者の鷲田清一さんは、大阪大総長などを歴任した哲学者で、 古来の金言からツイッターのつぶやきまで、 様々なことばを紹介しながら、思索をつづっています。鷲田さんは言います…