悲しいときは


〈折々のことば〉   155       鷲田清一

妻が逝って、私は、空ばかり写している。
元気になんか、なりたくないね。                                                                                  
                           荒木経惟(のぶよし)

悲しいときは悲しむだけ悲しんだほうがいい。
こころが空っぽになれば、
その空しさをそのままおもいっきり表したほうがいい。

妻に逝かれた写真家はしばらく、その「空(から)」を「空(そら)」として撮ることしかできなかった。
妻とのこの世ではぷつんと切れて垂れ下がっている糸に、
それでも自分をぶら下げたままにしておきたかった。
                「空景」展(1990年)に寄せたことば。
                           (2015・9・6)

郁ちゃん、私はあなたへの手紙(ブログ)を書き続けています。