闇の中に浮かぶ白いサギ

伊集院静さんの「東京クルージング」が地元紙で連載中です。

松井秀喜氏がニューヨークヤンキースに入団した時から、
ずっと取材していた記者の話です。
この記者は、弱冠39歳で世を去るのですが、その方と松井選手との交流をもとにした実話をアレンジして書かれているようです。

小説ではこれまでに、
少年時代に海難事故で命を奪われた弟のことや、伊集院さんの若き妻の死にも触れています。

今日の 第二章 天使の分け前(六四)は、三阪君の死を報された場面でした。
夕暮れにつつまれた闇の中に浮かぶ白いサギ・・・

浅野川でいつも私を待ってくれている白いサギに重なり、
胸がいっぱいになりました。

抜粋です。

・・・死は、その人に二度と逢えないだけのことで、
それ以上でも、それ以下のことでもないのだ。
しかし、死ぬのには若過ぎはしないか・・・・。

千鳥ケ淵の小径へ出た。
まだ蕾の桜木が雨に濡れ、その小径に相合傘の若い男女のカップルが仲睦まじそうに歩いていた。
この中のカップルのどこかに三阪君がいても何の不思議はなかった。
いや、むしろそうある方が、好青年であった彼にはふさわしかったのに・・・。
私は立ち止まり、お堀の水面を見つめた。
時折吹く風に水面はかすかに波立つが、あとは静かに佇んでいた。
その時、お堀の端に、一羽の白いサギがじっとしているのが目に止まった。
身じろぎもしない白いサギが、夕暮れにつつまれた闇の中に浮かんでいた。