あなた以上の悪人がここにいるのだから



新聞連載「親鸞」を毎日読むのが楽しみです。
五木寛之さんの講演は何度もお聴きしましたし、
奥様の実家がこの近くにあることから、とても親しみがあるのです。


・・・・・
「あなた以上の悪人がここにいるのだから。
それでもよければ、一緒に念仏の道をいこう」


そのとき親鸞は、人に語ることは、
自分に問いかけることなのだ、と、はっきりと感じた。
・・・・・


親鸞の言葉に置き換えて、
五木寛之さんは自分を語っていられるのだ、
との思いで読ませて頂きました。



親鸞   激動編  五木寛之  107  


(前略)
〈この男は本気だ〉
親鸞はおきあがった。
そして弟に語りかけるような語調でいった。
「わかった。刃物はおしまいなさい。
あなたに、聞いてほしい言葉がある。
むかし偈として教えられた古い仏典の中の釈尊の言葉に、
犀のごとく独り歩め、と・・・」
「わたしも聞いたことがございます」
と鉄杖はいった。
「すべての命あるものを殺すな、子を欲することも、
道ずれを求めることもやめよ、犀のごとく独り歩め、と」
「そうだ。だが、わたしには、それはできない。
命あるものを食べる。人とも争う。そして妻もめとった。
友もいる。わが子もほしいと思う。
わたしはそういう人間なのだ。
どうしてあなたなどを恐れることがあるだろう。
あなた以上の悪人がここにいるのだから。
それでもよければ、一緒に念仏の道をいこう。
釈尊の言葉さえ守れぬ悪人同士として」
鉄杖は身じろぎもせず闇の中で親鸞の声を聞いていた。
そのとき親鸞は、人に語ることは、
自分に問いかけることなのだ、と、はっきりと感じた。
人に語ることは、教えることではない。
それは、人にたずねることなのだ。
もっと話したい、と親鸞はつよく思った。
                       (北国新聞4月19日)




朝日歌壇 「東日本大震災を詠む」より

     袋縫う 仕事もありて ボランティア
     骨入れるためと  聞けばたじろぐ