小さき者へのまなざし

家のすぐ前に出来た、日本でも珍しい三つ目トンネル
郁代は完成を楽しみにしていたのですが、旅立った翌年開通しました。
      
          積もった雪がある風景




    積もった雪           金子みすゞ       


   上の雪
   さむかろな。
   つめたい月がさしていて

   
          下の雪
          重かろな。
          何百人ものせていて
   
      中の雪
      さみしかろな。
      空も地面(じべた)もみえないで
 



小さな命あるものを慈しみ、
命なきものへの優しいまなざし、
金子みすゞ の詩集の原点ともいわれています。


郁代のこんなエピソードを思い出しました。
・・・・・
高校に入学して間もない頃、
向かいの0さんちの猫が車に轢かれたことがあった。
学校から帰ったばかりの郁代は泣き叫んで頼んだ。
「お父さん、お願いだから病院へ連れて行って!」
真新しい制服の胸には、バスタオルにくるんだ血だらけの猫が抱きかかえられていた。
帰宅の遅い0さんちの家人にかわって夜遅くまで介抱したものの、
病院で手当した甲斐なく、明けがた近く、猫の命は消えていた。
翌日、郁代は目を真っ赤にして登校した。
               「あなたにあえてよかった」より
・・・・・



猫は瀕死の状態、その場にいた誰もが、
(もはや助からないだろう)と思ったのも無理のないことで、
病院へ・・・とは考えなかったのです。
あんなに錯乱した郁代を見たことがありませんでした。

郁代が持っていた小さき者への慈しみのまなざし、
私にはないものでした。
そんな二人がどうして親子になれたのでしょう。
不思議でなりません。