こんな苦しい目に遭うのなら


「ありがた〜いことがわかったがや」
義父のことばに触れるとき、
「こんな苦しい目に遭うのなら、生まれてこなければよかった」という、
重い病気にかかった、あるおじいちゃんの言葉を思い出します。


・・・・・
郁代が亡くなってしばらくたったある日のこと、近所を通りかかった私は、
顔見知りのおばあちゃんに出会い、生前の郁代の思い出話などをしていた。
その時おばあちゃんは、
「重い病気にかかった知り合いのおじいちゃんが、
〝こんな苦しい目に遭うのなら、生まれてこなければよかった〟といっていた」
という話をされた。
切羽詰(せっぱつ)まったら、わたしもそう思うような気がする。
何事もない時のわかったような理性は、追い詰められたときには、
木っ端微塵(こっぱみじん)に吹っ飛んでしまうのが、
紛れもない本来のわたしの姿なのだから。
・・・・・                          「あなたにあえてよかった」より


あんなに苦しかったのに、郁代はどうして
「生んでくれてありがとう」
といえたのでしょう。


重い病気にかかったおじいちゃんの中に、
私の姿を見せていただきました。
そんな私を、受けとめてやるから落ちてこいと、
下で手を差し出して待ってくださるのが仏さまでした。