東国からの使者(16)

第165回 東国からの使者(16)

親鸞はだまって机の横の木の箱から、『教行信証』の文章をとりだした。

「これがその文章だ。稲田にいたときから、ずっと書きつづけて、いまでも読み直しては手を入れている。『顕浄土真実教行証文類』という。
これはわたしが生涯をかけて書いている文章だ。
その目的は、ただ念仏せよ、といわれた法然上人のお教えが真実であることを自分でたしかめ、それを明らかにするためにほかならぬ。」

「この世に光あることを信じて念仏する、ただそれだけのことだ。
それを易行念仏、という。
とはいえ、それがどれほど大変なことかは、この親鸞もよくわかっている。」

「もし、この親鸞の言葉が信じられないのなら、どうぞ、このままお帰りになるがよい」

東国からの使者 (15)


いずれの行もおよびがたき身なれば・・・
『歎異抄』第二章が聞こえてきました。
  
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親鸞におきては、ただ念仏して、弥陀にたすけられまいらすべしと、
よきひとのおおせをかぶりて、信ずるほかに別の子細なきなり。

いずれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし。
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