「眼にて云ふ」

思い出の1冊       青木新門 
 

「眼にて云ふ」   宮沢賢治 作                                                   
私の場合、1編の詩が私の死生観や人生観をも変えたと言っていい。
それは宮沢賢治が晩年に書いた文語詩の中にある臨死体験の詩といってもよい1編である。
壊血病で血が出つづける40度近い高熱の病床で、
文字もかけないし言葉も発することができなかったので、
「眼にて云ふ」と題されている。


「だめでしょう  とまりませんな  
がぶがぶ湧いているですからな  
ゆうべからねむらず血も出つづけているもんですから  
そらは青くしんしんとして  もう間もなく死にそうです(中略)
ただどうも血のためにそれを云えないのがひどいです。
あなた方の方から見たらずいぶんさんたんたる景色でしょうが
わたしが見えるのは  
やっぱりきれいな青ぞらとすきとほった風ばかりです」


私が死者に毎日接しながら「人は死んだらどうなるのだろうか」
と真剣に考えていた時、この詩に出遇って目から鱗が落ちる思いがした。
なんだ、そういうことだったのかと。
わあわあ騒いでいるのは生者たちで、
その頃死者はすきとおった風の中にいるのだと思うと、
うれしくなった。
そんな美しいところにいる死者たちを美しく送ってあげるべきだと、
納棺夫の仕事に自信を持ったのであった。
                         H新聞  1・24


青木新門さんの講演は何度もお聞きしているので、
親しみを持って読ませていただきました。


「死者はすきとおった風の中にいるのだと思うと、うれしくなった」


この言葉に私は励まされる思いがしたのでした。