塔和子さん 「胸の泉に」

ハンセン病元患者の詩人、塔和子さんの訃報に接しました。
28日死去83歳でした。

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愛媛県西予市(旧・明浜町)に生まれる。
13歳で発症し、大島青松園に入所した。
園で知り合った同じ病の夫の影響で短歌を始めたが、
29歳で詩作に転向し、高見順賞などを受けた。
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以前ブログで書いた塔和子さん「涙」より

「涙」

あるとき
死のうと思った私が夫に
「一生懸命なのよ」と言うと
夫は
「同じ一生懸命になるのなら
生きることに一生懸命になってくれ
がむしゃらに生きようではないか」
と言ってくれた
私は目が覚めたように
そうだと思った
どんなに懸命に生きたとしても
永遠に続いている時間の中の
一瞬を
闇から浮き上がって
姿あらしめられているだけだ
   いのち
   この愛(いと)けないもの
思いっきりわが身を抱きしめると
きゅっと
涙が
にじみ出た



詩選集「いのちの詩」より

      「胸の泉に」

      かかわらなければ
        この愛しさを知るすべはなかった
        この親しさは湧かなかった
        この大らかな依存の安らいは得られなかった
        この甘い思いや
        さびしい思いも知らなかった
      人はかかわることからさまざまな思いを知る
        子は親とかかわり
        親は子とかかわることによって
        恋も友情も
        かかわることから始まって
      かかわったが故に起こる
      幸や不幸を
      積み重ねて大きくなり
      くり返すことで磨かれ
      そして人は
      人の間で思いを削り思いをふくらませ
      生を綴る
      ああ
      何億の人がいようとも
      かかわらなければ路傍の人
        私の胸の泉に
      枯れ葉いちまいも
      落としてはくれない


多磨全生園真宗報恩会に伝わる讃歌
「親鸞さまはなつかしい」より

6、 貧しきものの  手をとりて  われもさびしき  凡夫ぞと
  大地のうえに  ひれふした  親鸞さまは  なつかしい